始まりは、お互いに人生最悪の出会いだった。
「なんだこの見るからに怪しい奴は。さっさと都に帰れ」
マテオと名乗った、身なりのいい中年の男。
その表情からは、嫌悪の色しか伝わってこない。
閉じた村に、見知らぬ人間がやってきたのだ。
『最初は歓迎されないだろう』と事前に聞いてはいたけれど、これは前途多難だ。
「えーっ。そんなに怪しさがにじみ出てます? こんなに真面目そうな顔してるのに?」
「そんな嘘まみれの笑顔を貼り付けても、私は騙されんぞ」
両手の人差し指で、グッと自分の両頬を持ち上げ、おどけた笑顔を作ってみる。
けれど、目の前の仏頂面は微塵たりとも変わらない。
「二人とも、喧嘩はやめてくれ。それより早く娘を助けてくれ」
市長がたしなめた。
そうだ、アタシの受けた依頼は目の前の男を笑わせることじゃない。
薬師として、ベッドで苦しそうな顔をしている女の子を助けることだ。
この頑固な男も、医師のようだ。だが、閉じた村では知識も限られている。
彼では助けられなかったから、アタシが呼ばれた。彼にとっては、決して面白い気分では無いだろう。
「その妙な薬は何だ。素材は? 効能は何だ? おかしな副作用でも起こしてみろ。すぐに村から叩き出してやる」
おお、怖い怖い。心の中でぼやいて、アタシは女の子の検診をしながら、彼に視線を向ける。
「じゃあアタシ、これから決して、貴方に嘘は言いませんから」
少しくらい、信じて下さいね?
そう言って、笑って見せた。アタシにとっては、結構決意のいる言葉だったのだけど。
睨みつけてくる男に向かって、アタシは淡々と薬の説明をした。
***
幸い、市長の娘の治療は、問題なく終わりを迎えた。
その噂も広まってか、村の人たちの態度は軟化したように思う。
ただ一人を除いては。
「本当に彼女は治ったんだろうな。後から後遺症が出るんじゃないか?」
「そろそろ疑うのやめてくださいよー。もし本当にそんなことになったら、思う存分罵ってくれて構いませんけど」
「人の命を扱ってるんだ。疑うだけで事故が防げるなら、私はいくらでも嫌われ役になる」
頑固だけれども、何か信念のようなものは感じる。
最初はどうかと思ったけれど、嫌いにはなれないな、というのがアタシの感想だ。
「じゃ、アタシのことをもっと知ってもらうために。一緒にご飯とかどうです?」
「断る」
「そう言わずにー。市長から『住民と仲良くしてくれ』って依頼されてるんですよ。ぜひ、アタシを助けると思って!」
「なぜ私がキミを助けねばならんのだ! そんなに仲良くなりたいなら、他の奴でも探せ!」
ごもっとも。
けれども、アタシもアタシなりの理由がある。
「確かにそうですね。でも、一番アタシを嫌っている貴方と、まず仲良くなろうと思って」
「何故だ」
「一番嫌ってる人が態度を改めたら、他の住民も『薬師は良い奴だ!』って思ってくれるでしょう? これが一番効率的なので!」
「帰らせてもらう!」
怒りながら小走りに去ってしまった。残念。
けれどもアタシ、諦めだけは悪いのよ。
女の子主人公 pic.twitter.com/FJapx4l7Rf
— huku (@huku88) November 20, 2023