3話 災い

「おはようございまーす。マテオさん、依頼見ましたよー。ノートを落としたそうですねー」
「私は『絶対に薬師は来るな』と依頼に書いたはずだ」
「えっ『絶対来てくれ』って書いてませんでした? アタシの見間違いですかねー」

 掲示板に貼りだされた依頼は『原野で熊に追われて、大切なノートを落とした。探してほしい。絶対に薬師は来るな』という内容だ。
 せっかく超特急で会いに来たというのに。依頼人は呆れかえったため息をついた。

「はあ、どう足掻いてもキミが来るだろうと、半ば諦めていたがな」
「よし、そのまま完全に諦めてください」
「ふざけるな。依頼を受けるからには、きちんとこなしてもらうぞ」

 アタシは得意げに胸を張った。

「ノート、実は既に見つけてあります」
「おい」
「話が早くていいでしょう?」

 どうせなら受注と報告を同時にこなした方が効率的だ。彼に会う前に原野に寄って、落ちていたノートを拾ってきた。
 けれども、彼は訝しげに口を尖らせていた。

「中は見ていないだろうな?」
「見てませんよー。正直、見たいなあ、とは思ってますけど」

 好奇心をグッと抑えたアタシを褒めてほしい。
 ノートを渡したが、彼は中を見て表情を変えた。

「ページが抜けている。やはり中を見たな!」
「違いますって。アタシ、貴方に対して嘘はつかないって、言ったじゃないですかー」

 本当のことだ。無駄に嫌われる要素は増やしたくないので、ノートを必要以上に触ってはいない。
 しばらく話して、おそらく野生動物の仕業だろう、と納得はしてくれたが。
 さすがにアタシとて、気分のいいものではない。

「そんなにアタシのこと、嫌いですか?」
「当然だ。キミはこの村に災いを呼ぶ」
「何で断言するんですか」
「事実だからだ。過去が語っている」
「アタシは過去じゃない。今を語っているつもりよ」

 過去に村を訪れた薬師が、様々な環境破壊を行った。都から来た薬師というだけで、村人が嫌悪感を抱くことは理解している。
 とはいえ、その災いを引き起こしたのは、そもそもアタシじゃない。
 前任者の失敗を取り返すつもりも無い。
 アタシはアタシの実績で、信頼を築いているつもりだ。

「なら、災いを呼ばないと、誓えるか?」
「ええ、誓うわよ。この村に害をなすようなこと、絶対に起こさないわ」
「嘘ではないことを祈るよ」

 そう言って、彼は去っていった。
 姿が見えなくなってから、腹の底から深くため息をついた。

「あはは。さすがに、へこむなあ」

 苦笑する。彼が居なくて良かった。うまく笑顔を作れている気が、しない。

「災い、か。これが嘘になければ、いいんだけど」