「アタシはマテオさんのこと、尊敬してますよ?」
「病に倒れた住民を助けられない、そんな医師の、何を尊敬すると?」
薬師として村に赴任してから、何人もの患者を診てきた。
治療に失敗した場合は、都の病院か、もしくはマテオさんの治療室へ移送される。
今のところ、一度もマテオさんに頼ることは無かった。
「言っておきますけど、自分の手に負えない時は他者を頼るべきなので、そこは譲歩してほしいです」
アタシとて、病の全てを理解しているわけではない。未知の病にぶつかることもあるだろう。
ただ、今回言いたいところは、そこじゃない。
これを話せば、嫌われるだろう。
覚悟の上で、伝えてみる。
「一番初めに、市長の娘さんを助けた時、アタシは何を考えていたと思います?」
「さあな。キミの考えていることなど、分かるものか」
「もし治療が上手くいったら。少しぐらい『ざまあみろ』と思っても、バチは当たらないんじゃないか」
医の道を志す者として、ふさわしくない考えだろう。
それでも、それがアタシの正直な気持ちだった。
「常に村人第一のマテオさんと、自分のことだけ考えているアタシ。他者に求められる良い医者は、貴方の方ですよ」
きっと、「ほら見ろ。やはりキミはそういう奴だ」などと、避難の言葉を投げつけられるだろう。
そう考えていたのに。予想に反して、目の前の医者は何も言わず、表情も変えず。
ただ、口を固く結んでいる。
何を考えているんだろう?
お互いの間に、沈黙だけが佇んでいた。
夕焼けの日差しだけが、ただただ、赤い。
「私も」
ようやく、彼の口からぽつりと言葉が零れ落ちた。
「私も、キミのことしか考えていなかったよ」
それだけを言って、彼はすっと目を逸らした。
(あ、何だろう。今)
もっと、知りたいと思った。
この人のことを、人間を、もっと深く理解してみたい。
未知の病を手探りで探すように。自分に沸いた未知の感情を、追い求めたい。
ざわざわと、胸が騒ぎ続けていた。