15話 選択

絶不調だ。
 完全に、昨夜は飲みすぎた。
 市長や先輩たちに変なこと言ってないか、ちょっと心配だ。

「告白すると決めたら、すぐに決めれたのになあ」

 自分の気持ちに気づいたら、うだうだ悩んでいる時間がもったいなく感じた。
 だから、急かされるように仕事を詰め込んで、愛を伝えるブローチを買い、彼の家に突撃した。
 そして見事に玉砕である。先輩たちにこの話をしたら、見事に笑い飛ばしてくれた。とてもありがたい。

 今日も仕事をしなければ。
 いつもならば、出来るだけ呪術医の元へ、用事があろうと無かろうと顔を出していた。
 さすがに今は顔を合わせづらい。

 なら、遠くに引っ越せば良いのではないか、とも考えた。
 それも、どうしても嫌だ、と感じる。
 どうにも決めきれず、心が揺れ動き続けている。

「まずは、気持ちを切り替えなきゃ」

 体調を整えるところから始めよう。
 そう決めて、家から一歩、外に出る。

 瞬間、アタシの足はピタリと止まった。

 妙な、雰囲気だ。
 空気が、ピリピリする。
 小鳥のさえずりすら、聞こえてこない。

「タウ」

 びくりと、心臓が跳ねた。
 ありえない。
 何故、アタシの名が、ここで聞こえる。

 本来なら、ここで振り返るべきでは無かった。
 呼んだ名が、アタシのことだと教えているようなものだ。

「探したぞ」

 その男の姿を見て、アタシは動けなくなった。

 赤髪。夕焼け色のケープ。
 何故、どうして。

 恐怖で足がすくむ。
 駄目だ、動け。
 動かなければ、また、何もかも壊される。

「何を、怯えている」

 何も、喋るな。
 悲鳴も、上げるな。
 情報を与えてはいけない。
 唇を、強く噛みしめる。

「俺を、忘れたのか?」

 忘れるわけない。
 赤髪。傭兵団のリーダーの証。
 団を抜けたアタシを追って、アタシが隠れていた村を燃やし尽くした。

 喉が痛いぐらいに、カラカラに乾く。

 男が一歩、アタシに近づいた。

「キミ、人違いでは無いのか?」

 ふいに、男の姿が消えた。
 黒い背中が、アタシの視界を塞いだ。

「彼女は、タウという名前ではない」

 アタシが告白した人が、目の前にいる。

「そもそも、キミは誰だ? ここは大事な薬もある。敷地に軽々しく入るんじゃない」

 まるで、アタシと最初に会った頃のような剣呑さだ。いや、それ以上だろうか。
 沈黙が、下りた。
 長い時間のように感じたが、ほんの一瞬だったかもしれない。

「そうか。では、日を改めよう」

 赤髪の男はあっさりと、来た道を戻っていった。

 何故、素直に引き下がったのだろう?
 疑問は尽きないが、何事も無かったことに安堵した。

「ティー、何があった?」

 アタシを助けてくれた人が、振り向く。

 駄目だ。
 今のアタシの顔を、見られてはいけない。

 とっさに、アタシは自分の家の中に飛び込んだ。
 即座に扉の鍵を閉める。
 ガチャリと、重苦しい音がした。

「ごめんなさい」

 アタシは、遠くに行くことを、選択した。