絶不調だ。
完全に、昨夜は飲みすぎた。
市長や先輩たちに変なこと言ってないか、ちょっと心配だ。
「告白すると決めたら、すぐに決めれたのになあ」
自分の気持ちに気づいたら、うだうだ悩んでいる時間がもったいなく感じた。
だから、急かされるように仕事を詰め込んで、愛を伝えるブローチを買い、彼の家に突撃した。
そして見事に玉砕である。先輩たちにこの話をしたら、見事に笑い飛ばしてくれた。とてもありがたい。
今日も仕事をしなければ。
いつもならば、出来るだけ呪術医の元へ、用事があろうと無かろうと顔を出していた。
さすがに今は顔を合わせづらい。
なら、遠くに引っ越せば良いのではないか、とも考えた。
それも、どうしても嫌だ、と感じる。
どうにも決めきれず、心が揺れ動き続けている。
「まずは、気持ちを切り替えなきゃ」
体調を整えるところから始めよう。
そう決めて、家から一歩、外に出る。
瞬間、アタシの足はピタリと止まった。
妙な、雰囲気だ。
空気が、ピリピリする。
小鳥のさえずりすら、聞こえてこない。
「タウ」
びくりと、心臓が跳ねた。
ありえない。
何故、アタシの名が、ここで聞こえる。
本来なら、ここで振り返るべきでは無かった。
呼んだ名が、アタシのことだと教えているようなものだ。
「探したぞ」
その男の姿を見て、アタシは動けなくなった。
赤髪。夕焼け色のケープ。
何故、どうして。
恐怖で足がすくむ。
駄目だ、動け。
動かなければ、また、何もかも壊される。
「何を、怯えている」
何も、喋るな。
悲鳴も、上げるな。
情報を与えてはいけない。
唇を、強く噛みしめる。
「俺を、忘れたのか?」
忘れるわけない。
赤髪。傭兵団のリーダーの証。
団を抜けたアタシを追って、アタシが隠れていた村を燃やし尽くした。
喉が痛いぐらいに、カラカラに乾く。
男が一歩、アタシに近づいた。
「キミ、人違いでは無いのか?」
ふいに、男の姿が消えた。
黒い背中が、アタシの視界を塞いだ。
「彼女は、タウという名前ではない」
アタシが告白した人が、目の前にいる。
「そもそも、キミは誰だ? ここは大事な薬もある。敷地に軽々しく入るんじゃない」
まるで、アタシと最初に会った頃のような剣呑さだ。いや、それ以上だろうか。
沈黙が、下りた。
長い時間のように感じたが、ほんの一瞬だったかもしれない。
「そうか。では、日を改めよう」
赤髪の男はあっさりと、来た道を戻っていった。
何故、素直に引き下がったのだろう?
疑問は尽きないが、何事も無かったことに安堵した。
「ティー、何があった?」
アタシを助けてくれた人が、振り向く。
駄目だ。
今のアタシの顔を、見られてはいけない。
とっさに、アタシは自分の家の中に飛び込んだ。
即座に扉の鍵を閉める。
ガチャリと、重苦しい音がした。
「ごめんなさい」
アタシは、遠くに行くことを、選択した。
