今のアタシの願いは、ただ一つ。
「ティー、何故鍵を閉めた!? 開けろ!」
後ろでは、扉を激しく叩く音。
アタシは深く息を吸って、精一杯の笑顔を浮かべる。
そして、扉に向かって、大声で叫んだ。
「あーあ、マテオさん、結局落とせなかったなー」
「何の話だ?」
「最初に言ったじゃないですか。『マテオさん落とせれば、皆の信頼得られる』って」
アタシ、正直でしょ?
扉越しに見えるはずも無いのに、笑って見せる。
「ふざけるのはよせ。それより、『タウ』とはキミの名か?」
やはり、その質問から来るか。
その昔の名は、アタシにとっては恐怖の対象でしかない。
「そうですよ~? 調べてもらえれば分かりますけど、ある災いを呼んだ名ですよ?」
以前に、村に災いを呼ばない、と約束した。
アタシが出ていけば、その約束も果たせる。
「キミは、出会った時から何か隠し事をしていた」
「そんなことありませんけど?」
「私は呪術医として長い間、『人』を見てきた。今までの間、キミのことも見てきたつもりだ」
理解できる。何度も、彼にはアタシのいろんなものを見抜かれてきた。
でもこの願いだけは、見抜かれたくない。
「キミが隠したかったのは、その名なのか。先ほどの男と、関係があるのか?」
「さすがマテオさん、鋭いですねー」
「あの男は誰だ!」
「アタシを、ここではない遠い場所に連れていく人ですよ」
さあ、笑え。
隠しきるんだ。
「そういうわけで、アタシ、村を出ていきますね」
今のアタシの願いは、ただ一つ。
アタシを、嫌って。
心底、憎んで。
貴方に告白した馬鹿な女なんて、忘れてしまうぐらいに。
「何故だ!」
「アタシは、ここに居たくないから」
本当の気持ちだ。
あの赤色が襲ってくる前に、今すぐここから逃げ出したい。
「嘘をつくな、ティー!」
「アタシは、貴方に会いたくないの」
これも、本当。
貴方を、危ない目に遭わせたくない。
「頼む、本当のことを、言ってくれ」
「アタシは、貴方と人生を共にしたいなんて、思っていない」
嘘なんて、ついてない。
なら何故、アタシの心は、ぽろぽろとなみだをこぼしているの?
「もう結構だ! キミのことなぞ、もう知らん!」
その大声を最後に、愛しい気配は遠くへ去って行った。
ああ、良かった。
うれしい、とアタシは呟く。
これも、本当のこと?
もう、分からない。
