市長室に集まるように、マテオから呼び出された。
アタシと市長に大事な話があるそうだ。
が、当の本人が約束の時間に遅れていた。
「キミたちは、今でも仲が悪いのか?」
「アタシは仲良くやっているつもりですよ」
市長の雑談に、アタシは笑い返す。
最初に比べれば、彼の態度は柔らかくなったとは思う。
「彼はきわめて頑固だが、誇り高い男だ」
「知ってますよ」
「とてもやさしい人間なんだ。出来れば、キミたちには手を取り合ってほしい」
市長は、彼のことをよく分かっているようだ。
アタシだって、分かっているつもりだ。
しばらくして、ようやくマテオがやってきた。
「遅れてすまない。早速で悪いが、外で広がっている病の件について報告だ」
彼が独自に追っていた病が、他の場所にも伝播しているという。
「頼む、薬師。薬のレシピは見つけたが、私には作り出せなかった」
彼が頭を下げた。アタシは無言で渡された彼のノートを見る。
レシピは複雑だが、これなら素材を集めるだけで作れそうだ。
「専門的なことは分からないが、任せるよ」
市長の言葉に、彼は深く頷いた。
「我々を信頼してくれて、感謝する」
対処は早ければ早い方がいい。
市長室を出て、さっそく原野へ向かおうとする。
「待て、薬師。私に、何か出来ることはないか?」
彼に呼び止められて、私は足を止めた。
「このレシピを発見してくれただけで、十分よ。ノートも、見せてくれてありがとう」
彼が頑なに中を見せたがらなかったノートだ。
本当は、アタシの手を借りずに、一人で解決したかったのだろう。
「キミは、私が頭を下げても、茶化さないんだな」
「真剣な依頼でしょう? ならアタシも、真剣に応えますよ」
「そうだろうな。キミは、悪意には悪意を、善意には善意をはっきりと返す人だからな」
彼も、アタシのことを分かっているのだろうか。
どことなく嬉しい。ここに誰も居なければ、今すぐ小躍りしたくなるぐらいに。
「でもマテオさんには何か冗談言いたくなるんですよねー」
「ほどほどにしてくれ」
照れ隠しで思わず言ってしまったが、彼の厳しい表情が少しだけ崩れてくれた。
「それで、どこまで行くつもりだ? いつ帰る?」
「雪山まで。今から急げば、今夜には薬を作れると思いますよ」
できるだけ最適かつ最短を目指すのでご安心あれ。
そう笑って見せたが、彼の顔はまだ不安げだ。
「外では、キミはいつも一人だ。何かあったら、どうする」
「麓のレンジャーには毎回出発の報告をしていますし、帰還が無ければ捜索を行う手筈になっていますよ」
いつも以上に心配しているのは、何故だろう。
自分が依頼したことだからだろうか。
「そんなに、アタシが心配ですか?」
「ああ、心配だ」
「大丈夫ですよ。必ず、帰ってきますから」
さらに、もう一押し。
「ね、アタシを信じて?」
この言葉が嘘じゃないって、貴方なら分かってくれるでしょう?
「ああ、信じているよ」
.
白い雪原に、一人立つ。
夕焼け色のケープが、冷たい風にはためく。
いつもの戦場だ。別に何も変わらない。
けれど、こんなに気力に満ちた戦いは、初めてだ。
今回は、彼の望みの為に戦っている。
彼の助けになれるのだ。嬉しくないわけが、ない。
狼も熊も、群れを成して、じわりと近づいてくる。
アタシは笑って、彼らに向かって手招きした。
「さあ、素材ちゃん、かかってらっしゃい」
今日のアタシは、とっても機嫌がいいのよ!
