呪術医は、自然を大事にすべし。
先祖代々からの教訓だ。
だからこそ、私は日々のルーティンもきっちりと守る。
睡眠は決まった時間にしっかりと確保、自然観察は毎朝行う、休憩時間のお茶も丁寧に淹れる。
そんな愛すべき日常に、雑なノックの音が入り込む。
どうせあの薬師だろう。
最近現れた彼女は、私の日常を破茶滅茶に壊していった。
家のドアを開けなければ、延々とノックされる。それに万が一の急患の可能性もある。
私は渋々と扉を開けた。
「やあ、呪術医さん、おはよう。勝手にお邪魔しまーす」
予想に反して。
そこに立っていたのは、細目の男だった。
「何しに来た、都の医療協会の下っ端」
「下っ端なんてひどいな! ティーに聞いていたけど、本当に都が嫌いなんだな」
確か、コリンという名前だったか。
追い払おうとしたが、当の本人はするりと家に入り込んで、近くの椅子に座った。
「薬師の知り合いか?」
「ただの友人だよ。彼女、ここに居ない?」
さあな、と私は突き放すように答える。
「じゃあ勝手に待たせてもらうよ」
「邪魔だ、出ていけ」
どれだけ言っても、男は笑顔を浮かべているだけで、どこ吹く風。
そうか。この男も、あの薬師と同じタイプの人間か。
「彼女、元気にしてる? 村の入り口に居たレンジャーに聞いたら、この家によく入り浸ってるって聞いてさ」
「キミと同じように、勝手に上がり込んでるだけだ」
「なるほど。ティーは元気そうだな! こんなに面白い遊び相手がいるんだから!」
心底楽しそうに笑い声をあげる男に、私は思わず眉根を寄せた。
こうして、私の日常のリズムは崩されていく。
だが、最近はその崩れた日常も、当たり前になりつつあった。
嵐のような彼女の、明るい声が響く日々。そんな時間が毎日続けば、それもまた日常に取り込まれていく。
なるようになれ、と思いつつあった。
けれども、そう思えるのは彼女だけだ。
この細目の男では、無い。
「キミと彼女が友人だというのは、よく分かった。人の話を聞かないところがそっくりだ」
「そうかなあ。オレは彼女みたいに、すごい奴ではないよ?」
「すごい奴?」
男は自慢げに頷く。
「ティーが協会に入りたての頃、素材の採取中に、モンスターに襲撃されてね。オレも他の薬師も慌てて逃げ出す中、彼女だけが立ち向かった」
想像がつく。原野での彼女の戦いぶりは、何度か目にしていた。
「その後、彼女の評価はどうなったと思う?」
「一気に出世でもしたか?」
「怖がられたよ。普通、薬師が戦うことあまり無いからね」
男は肩をすくめながら、淡々と答えた。
ふと、戦う彼女の、目を思い出した。得物を狩ることしか考えていない、殺気に満ちた目だった。
「何で戦えるのかって聞いたけどさ。『昔から強かったんだよー』って、笑って躱されたよ」
厳しい傭兵の環境に居た、という彼女の過去。
私だけが、知っていたのか。
友人だという彼にも、教えていなかった。
その事実に、どうして、優越感を覚えてしまう己が居るのだろう。
「ま、オレともう一人の同僚で、ティーとは仲良くなったんだけどね。その話、聞きたい?」
「興味が無いな」
「そんなこと言わずにさ、聞いてくれよ」
無意味な押し問答を続けていると、唐突に家のドアが開いた。
「マテオさーん、おはようございます! 勝手にお邪魔しましたよー」
「どっちも帰れ」
無駄に騒がしくなった。
どうやら、今日もまた煩わしさに一段と磨きがかかる、そんな一日になるようだ。