摂政ステイル、一日目。
4.
「誰だ、お前。ステイルじゃねえ」
「お前こそ何だ、アーサー。その長髪は」
目の前の男は、確かに俺の知っているステイルだった。ただそれは、外見だけの話だ。
こんな、濁った眼をした奴じゃない。顔つきも違う。こいつが誰かは知らないが、どんな人生歩んできたらこんな顔になる。
ステイルが変だ、とステイルの護衛をしている騎士から伝えられ、部屋まで会いに来てみればこれだ。
おかしいどころじゃない。これは別人だ。
「ハッ、騎士団長らしくもない。それとも、俺が全部を終わらせてしまったから、自棄にでもなったのか?」
何故俺を『騎士団長』と呼ぶ。いや、理由はどうでもいい。
俺は即座に剣の切っ先を男に向けた。
「ステイルは、何処だ」
刃の切っ先を喉元に向けられても、ステイルのような何かは微動だにしない。闇のような暗い目が、かすかに細められただけだ。笑っているのか。
「俺が、何か変わったように見えるのか? 確かに、何が何でも成し遂げたい一つを、この手で終わらせたからな」
意味不明な言動を繰り返す様は、あの時の彼女の様子に似ている。
だが、ステイルも狂わされたようには見えない。直観としか言えない何かが、これは別人だと叫んでいる。
「それより、ティアラの護衛はどうした。今、彼女を守り通すことがどれだけ重要か分かって」
「ステイル? アーサー? どうしたの?」
彼女の声が、ふいに響いた。
開いたままの扉から、赤い髪をなびかせて、彼女が入ってくる。
瞬間、男の顔が驚愕に染まった。まるで存在しない何かを見てしまったかのように。
「な、んで、生きてっ、いるんだ!」
「プライド様! 離れて!」
男が動こうとするよりも早く、俺は男の腕を掴んで床に押さえつけた。男は暴れてもがきながらも、プライド様を敵意に満ちた眼で睨みつける。
「許さないっ! まだ悲劇を撒き散らすというのなら、次こそ俺がっ」
黙らせようと首に腕を回したが、それでも男は叫び続ける。
「俺が、殺してやる!」
憎悪の炎が、青ざめたプライド様に向けられた。