第一王子ステイル、一日目
1.
空気が、違った。
目を覚まして、最初に感じた違和感は部屋の内装だった。
見慣れた自分の部屋、ではない。
けれども、ベッドの傍らには自分の眼鏡と、第一王子の服が畳まれて置かれている。
ぼんやりとした頭のまま、服に袖を通す。昨夜、奪還戦がようやく落ち着いたのもあって、友のアーサーと酒を交えながら語り合っていた。とはいえ、酩酊するほど飲みすぎたわけでもない。
やはり、おかしい。じわじわと、理由もなく心に不安がにじり寄る。飛び出すように部屋の扉を開ければ、そこには。
「おや、ステイル様。おはようございます」
見知った顔があった。宰相のジルベール。突然部屋から出てきた俺に驚きの顔を見せつつも、声は落ち着いたままだ。
「おい、姉君はどこだ」
問いかければ、ジルベールが不思議そうに目を丸くする。
「なるほど、夢見でも悪かったのでしょうか。寝ぼけているように見受けられます」
またもや、違和感。目の前の男を知っているはずのに、どこか違う。こんな暗い声だったか。
「仕事は山積みですが、辺りを散策することを勧めますよ。ステイル様の成果がご覧になられるかと」
「何の話だ」
回りくどい言い方に思わず顔をしかめても、ジルベールは気にせず背を向けて去っていった。
とにかく、まずは姉君だ。瞬間移動しようと、意識を集中させて。
そのまま、数秒が過ぎた。
ドクリと、心臓が跳ねた。力が使えない。何故だ。思わず両手を見たが、力を封じられる手枷がつけられているわけでもない。
城内を駆けた。何故誰も居ない。何故、放置されて荒れた部屋がある。姉君は、どこに。
「ステイル? どうしたの?」
城の外に出ようと、城門に向かう長い廊下を駆けていた。ふわりと、視界の端に金色の光が舞う。
「ティアラ! 姉君はどこにいる!?」
思わずティアラの両肩を掴んで叫ぶ。突然の俺の行動に、ティアラは目を丸くして。
そのまま、悲し気に目を伏せてしまう。
「そんなの、分かっているでしょう? お姉様、は」
震えながら、ティアラの言葉が紡がれる。
やめてくれ。
よせ。
言うな。
どれだけ姉君の名を呼んでも。声がしない。気配が無い。
あれだけ何があったか知りたかったのに、今すぐティアラの口を塞いでしまいたい。
けれどもついに、声が届いた。ティアラからではない。城門の外からだ。
『ついに、終わった! 終わったぞ!』
『あの極悪女王が、居なくなったんだ!』
民衆の声だろうか。まるで祭りのような喜びに満ちた声に似ているが、こんな狂った歓喜の喧騒は聞いたことが無い。
『プライド女王は、ついに討ち果たされた! これからはティアラ女王の時代だ!』