摂政ステイル、三日目。
6
この世界のプライドと、話をさせてほしい。
ステイルのその一言で、城中が再び騒ぎとなった。
この三日目を何とかやり過ごせれば、元のステイルが帰ってくるはずだ。断るべきだとの意見が大多数の中、プライド様はステイルの要望を聞き入れた。
優しいプライド様のことだ。このステイルについても、自分に出来ることはしたいと考えているのだろう。
謁見の間で、王女用の椅子にプライド様が座る。俺は剣を携えて、その傍らについた。
何があっても対処できるように、騎士の厳重な警護の中、面談は行われた。
「話の場を設けて頂き、感謝いたします」
膝をついたステイルが、頭を下げたまま淡々と述べる。俺は剣の柄に手を添えたままで、ステイルの一挙一動を見張る。
「いいえ。意図した来訪ではないとはいえ、このような扱いしか出来ず申し訳ございません」
「こちらこそ、初対面での非礼をお詫び致します」
ステイルが他人の様に畏まっている。奇妙な光景だった。俺以外の周囲の人間も、同じ感想のようで、微妙な表情を浮かべた者ばかりだ。
「それでは、本題に入らせてください。俺の願いを一つ、聞いていただけますか」
「私に出来ることならば」
王女の顔つきでプライド様が告げる。
対して、ステイルは、笑顔を張り付けて。
「俺の世界に、来てほしいのです」
腹黒策士の顔で、とんでもないことを言い出した。
周囲がざわめいても、ステイルは動揺した様子もない。プライド様も驚いたようだが、冷静な顔つきのままで口を開く。
「何故、私に?」
「俺のティアラに。お優しい姉君を、会わせてあげたいのです」
このステイルとは、出会ってたったの数日の仲だ。
けれども、そんな短い間でも、ステイルのティアラに対する感情は、本物だろうと思えた。
今話していることも、嘘ではないのだろう。
「ティアラは、姉君との姉妹の関係を望んでいました。俺の世界では、もうそれは叶うことはありません」
だが、気持ち悪い。全身がざわついて仕方がない。
作り笑顔の裏側に、何か別の意図を含んでいる。
「少しでいいので、話をしてほしいのです。姉妹の時間を、贈りたい。俺の願いは、ただそれだけです」
「無理だっ! そもそも、どうやってプライド様がそちらの世界に行くんだ!」
俺は思わず口を出していた。これ以上、ステイルの独壇場にはしたくない。
だがステイルは、まるで俺の言葉が予想通りと言わんばかりに、余裕めいた表情だった。
「俺は、何者かの特殊能力でここに来たそうですね。であれば、その人物を探し出せれば、同じく俺の世界にも来訪できるでしょう?」
ステイルの懇願は止まらない。
「貴方は、民の為に尽くす女王なのでしょう? 従者にも、家族にも、妹にも優しい心を持つのでしょう?」
プライド様がどんな言葉に反応するかを分かって、彼女に一番突き刺さる言葉を選んでる。
なんでそんなことが出来るんだ。このステイルにとっては、プライド様は憎悪の対象のはずだ。
そして、気づいた。ステイルも、俺を観察していたんだ。俺が話すプライド様の印象から、彼女の人柄を知った。彼女の優しさを知ってほしいと思って、思いつく限りの話を尽くしたのが、仇になった。
駄目だ、止めなければ。彼女を唆そうとするこの口を、今すぐ塞がなくては。
「だったら、俺の世界も、救えるはずではありませんか?」
「プライド様、駄目です! これ以上聞く必要は無い!」
反射的にプライド様に視線を向けた。
けれども、もう遅い。
彼女の目はまっすぐに、ステイルを見つめていた。
「もしも、本当に行けるのならば。もしも、私に救う力があるのなら。貴方の世界も、救いたい」