ぼくはガラスのバラになりたい

そしてぼくは、天使さまの居場所から飛び出した。

「待っててください、フェンネルさん。ガラスのバラ、ぼくが見つけてくるっす!」

涙がからっぽになるんじゃないか、と思うぐらいに泣いて、眠って。少しだけすっきりした頭で、ぼくが天使さまに出来ることを考えた。

そして思いついたのは、ガラスのバラだ。
存在しないと思われていた奇跡の花。窮地に陥った天使さまを救った薬があれば、天使さまは長生きできるはずだ。

一度は見つかったのだ。きっと前回の様に、諦めずに探し続けていればきっと見つかるはず。
どうして、こんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。
居てもたってもいられず、ぼくはキッチンカーからこっそりと出ていった。

***

「おなかすいたっす」

そしてぼくは、道に迷っていた。

まずはガラスのバラがある、天使さまの故郷に向かおうと思っていた。
すべてがガラスで出来た美しい世界。探し物があるとすれば、まずはそこだろう。

けれども今は、どこを見回しても、薄暗い森しか見えない。頭上を見ても、枝葉の隙間から曇り空が見えるだけ。

「と、とにかく歩き続けるっす」

自分がどこにいるかも分からない。
それでも、諦めなければ大丈夫と、何度も何度も自分に言い聞かせて、とにかく足を動かし続ける。

でも、限界はすぐに訪れた。

「なんだか、あの時と同じ光景が、見えるっす」

家族のいる家から、黙ってこっそりと出て行った後。何もかもがもう駄目だと思ったときに、天使さまに出会えた。
だから、不思議と不安は無かった。今も同じように苦しいけれども、きっとなんとなるはずだ。

だって、ぼくは今までずっと、いい子にしてきたんだから。

気づけば、景色が横向きになっていた。違う、自分が転んでしまっているのだ。まだ、森の中から抜け出せても居ない。

ぼやけていく景色の中で、見えてきたものは。

「あれは、世界樹?」

木々の隙間から、遠くにひと際大きい樹があるのが見えた。

「そうだ、世界樹には妖精がいるって、聞いたことがあるっす」

選ばれた人にしか見えない妖精。天使さまが、そんな話をしていた。
だったら、お願いしてみよう。

「妖精さま。お願いです。ガラスのバラが、ぼくには必要っす」

弱弱しい声しか出てこない。息が詰まりそうだ。
それでもぼくは、か細く言葉を吐き出し続ける。

「ぼくのたいせつな人を助けたいんっす。お願いっすから」

どれだけ言葉をこぼしても。風の音しか返ってこない。

見えない妖精なんて、本当に居るのだろうか。

本当は、居ないのではないだろうか。

居たとしても。ぼくの声なんて、聞いていないのではないだろうか。

「どうすれば、ぼくの願いは、叶うんっすか」

もう流せる涙すら、残っていない。

「ガラスのバラが、無理なのなら、せめて」

せめて、天使さまが、たいせつな人といれるように。

願った言葉は、もう言葉にすらならない。

世界が閉じていく。