1.
ぼくの天使さまは、いつも見えない何かを見つめていた。
「思い出はガラスのようだね」
キッチンカーを運転している天使さまの横顔は、微笑みを湛えている。
「ガラス、っすか?」
「そう。ガラスのお皿と同じで、手入れをしていればいつまでも美しい。大事に扱えば、壊れることも無い。そう思わないかい、バジル」
天使さまは、とてもきれいな男のひとだ。
ぼくの口からは、思ったことがそのまま飛び出してきた。
「そうっすね。フェンネルさんはいつ見てもキラキラしてるっすから、思い出だって、ずっとキラキラっす!」
そんなぼくの同意が嬉しかったのか、天使さまの口元がくすりと笑った。
「そういえば、旅の目的地を決めていなかったね。せっかくだから、僕の思い出を巡ることにしようかな」
「わあ、楽しみっす! どんなところっすかね~?」
助手席でぼくは手を振り広げながら、今から出会える新しい場所に想いを馳せる。
どんな楽しいことがあるんだろう。どんなうつくしいものが待っているんだろう。わくわくする気持ちが止まらない。
ぼくがはしゃいでいると、天使さまはいつも楽しそうだ。
だからぼくは、出来るだけ楽しく過ごそうと決めていた。
天使さまのたいせつな人が、ぼくじゃないとしても。